【結論】ベースアップ評価料を届出しないと医療機関に何が起こる?
ベースアップ評価料の未届出で最も大きな影響を受けるのは、医療機関の診療報酬収入と職員の処遇改善です。
具体的には、次の5つの問題が生じます。
1. ベースアップ評価料を算定できない
ベースアップ評価料は、施設基準を満たしたうえで地方厚生(支)局に届出を行い、受理されることで算定できる診療報酬です。
そのため、届出をしていない場合や、必要な施設基準を満たしていない場合は、原則として算定できません。
通常の初診料や再診料など、ほかの診療報酬まで一律に算定できなくなるわけではありません。影響するのは、届出が必要なベースアップ評価料の部分です。
2. 医療機関の収入が減少する
ベースアップ評価料を算定できなければ、本来得られるはずだった評価料収入を確保できません。
特に、外来患者数や入院患者数が多い医療機関では、継続的な収入の差が経営に影響する可能性があります。
3. 職員の賃上げ原資を確保しにくくなる
ベースアップ評価料の収入は、対象職員の基本給や毎月支払われる手当の引き上げ、その増額に伴う賞与や法定福利費などに充てる仕組みです。
届出をしなければ、この制度を通じた賃上げ原資を得られません。
ただし、未届出だからといって医療機関が独自に賃上げできなくなるわけではありません。自己資金による賃上げは可能です。
4. 職員の待遇改善で他院との差が生まれる
人材確保が難しい医療現場では、給与水準が採用や定着に影響します。
ベースアップ評価料を活用できない医療機関は、独自に人件費を確保する必要があり、経営体力によっては賃上げの継続が難しくなることも考えられます。
5. 届出内容と異なる請求をすると請求上の問題が生じる
届出をしていない評価項目を請求したり、受理された区分と異なる内容で請求したりすることは避けなければなりません。
厚生労働省は2026年8月19日付の事務連絡で、施設基準の届出で受理された評価項目と診療報酬請求の内容に疑義が生じている医療機関があるとして、8月診療分以降の適切な請求を求めています。
つまり、単に届出書を提出するだけでなく、実際に受理された評価料と請求区分が一致しているかまで確認する必要があります。
【2026年度最新】ベースアップ評価料の届出期限は5月!既存施設も再届出が必要
2026年度(令和8年度)の診療報酬改定で、医療機関が特に注意しなければならないのが、従来から算定していた施設にも再届出が求められた点です。
2026年の届出期限は6月1日必着
厚生労働省が2026年4月23日に更新したベースアップ評価料の特設ページでは、従来から届出をしていた医療機関も含め、すべての医療機関に5月中の届出が必要と案内されました。
具体的な提出期間は次のとおりです。
- 提出開始日:2026年5月7日(木)
- 提出期限:2026年6月1日(月)
- 提出条件:6月1日必着
- 提出先:所在地を管轄する地方厚生(支)局
この期間内に必要な様式を提出することで、2026年6月から新しいベースアップ評価料の算定を開始するスケジュールでした。
なぜ以前から届出していた施設も再提出が必要なのか?
理由は、2026年度診療報酬改定によって評価体系や対象職員、算定要件が見直されたためです。
以前の届出がそのまま新制度に引き継がれるわけではありません。
厚生労働省の案内では、2026年5月以前から算定していた医療機関についても、6月以降の算定継続には改めて届出が必要とされています。
したがって、次のような認識は誤りです。
- 以前に届出したから2026年度も自動的に算定できる。
- すでに評価料を請求しているので新しい届出は不要。
- 施設基準に変更がなければ手続きは一切不要。
過去の届出実績と2026年度の届出義務は別の問題として管理する必要があります。
2026年度診療報酬改定で何が変わった?
厚生労働省の改定概要によると、2026年度は医療従事者の処遇改善をさらに進めるため、評価料の対象職員や評価体系が見直されました。
主な変更点は次のとおりです。
- 事務職員が対象職員に追加された。
- 40歳未満の医師・歯科医師・薬局薬剤師も対象に拡大された。
- 外来・在宅、訪問看護などの評価体系が見直された。
- 継続的に賃上げを実施している医療機関と、それ以外の医療機関で評価に違いが設けられた。
- 2026年度・2027年度に段階的な賃上げを支援する仕組みが整備された。
改定の賃上げ目標は、医療機関等の対象職員について2026年度・2027年度それぞれ3.2%、看護補助者・事務職員についてはそれぞれ5.7%とされています。
【比較表】外来・在宅ベースアップ評価料Ⅰ・Ⅱと入院ベースアップ評価料の違い
ベースアップ評価料には複数の種類があり、すべての医療機関が同じ届出をすればよいわけではありません。
医療機関の診療形態や職員の賃金改善に必要な金額によって、適用される評価料が異なります。
外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)
外来診療または在宅医療を実施し、対象職員が勤務する医療機関が対象です。まず検討する基本的な評価体系です。
外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)
(Ⅰ)の収入だけでは賃金改善に必要な原資を十分に確保できないなど、所定の施設基準を満たす医療機関が対象です。(Ⅰ)の届出が前提となります。
入院ベースアップ評価料
入院基本料などを算定する医療機関が対象です。(Ⅰ)の届出を行い、賃金改善の必要額などに応じた要件を満たす必要があります。
それぞれの関係を整理すると、次のようになります。
※実際に必要となる様式は、病院・有床診療所・無床診療所などの施設区分や算定する評価料によって異なります。最新の様式95~100と厚生労働省の令和8年度版早見表で確認してください。
施設基準で確認すべきポイント
届出を行う際は、単に職員が在籍しているかどうかだけでなく、賃金改善に関する要件も確認する必要があります。
主な確認項目は以下のとおりです。
- 対象職員が勤務しているか。
- 外来・在宅医療や入院医療の実施状況が要件に合致しているか。
- 基本給や毎月支払われる手当の賃金改善状況を把握できているか。
- 評価料による収入を対象職員の賃金改善に充当できるか。
- 必要な実績報告書を提出しているか。
特に(Ⅱ)や入院ベースアップ評価料は、(Ⅰ)の届出状況や賃金改善算定基礎額などが関係します。自己判断で区分を決めるのではなく、公式様式の計算結果と施設基準通知を照合することが大切です。
【届出遅れへの対応】5月の期限を過ぎた医療機関はどうすればいい?
2026年11月3日時点では、6月算定開始に向けた当初の届出期限はすでに過ぎています。
しかし、5月の期限を逃したからといって、今後も永久にベースアップ評価料を算定できないという意味ではありません。
重要なのは、遅れた場合の算定開始時期と、必要な手続きを確認することです。
1. まず管轄の地方厚生(支)局に相談する
最初に行うべきことは、医療機関の所在地を管轄する地方厚生(支)局への問い合わせです。
確認したい内容は次の4点です。
- 2026年度の届出が受理されているか。
- 未届出の場合、現在の様式で新規届出が可能か。
- どの評価料の届出が必要か。
- いつから算定を開始できるか。
すでに届出を提出した場合も、単にメールを送信しただけで安心せず、受理状況を確認してください。
2. 最新の届出様式を使用する
厚生労働省の特設ページでは、医療機関向けの届出様式95~100が公開されています。
2026年5月27日には、入院診療のみを実施し、外来診療がゼロ件の医療機関について、入院ベースアップ評価料の区分表示に誤りがあるとして様式が更新されました。
該当する医療機関は、旧様式で区分が250と表示された場合、最新様式で再作成・再提出するよう案内されています。
こうした更新を見落とすと、書類の再提出や算定区分の確認が必要になる可能性があります。
3. 届出が遅れた場合の算定開始時期を確認する
施設基準の届出については、原則として、各月の末日までに要件審査が完了し、受理された場合は翌月1日から算定できます。
また、月の最初の開庁日に審査が完了し、受理された場合には、その月の1日から算定できる取扱いがあります。
例えば、通常の月末受理のルールに従って11月中に受理された場合、原則として12月1日からの算定が想定されます。
ただし、実際の算定開始日は届出内容や受理状況によって異なるため、管轄の地方厚生(支)局に確認してください。
重要なのは、届出が遅れたからといって、6月分まで自動的に遡って請求できるわけではないことです。
過去の診療分について独自の判断で請求することは避けましょう。
4. 届出方法を間違えない
2026年7月31日時点で厚生労働省が案内している医療機関向けの提出方法は、専用メールアドレスへのExcelファイルの送信です。
提出時には次の点に注意してください。
- 医療機関の所在地を管轄する地方厚生(支)局の提出先を確認する。
- 最新の公式Excel様式をダウンロードする。
- 指定されたExcelファイルを提出する。
- PDFやZIPなどの別形式ファイルを添付しない。
- 独自に加工したファイルやパスワード付きファイルを使用しない。
- OneDriveなどの共有リンクを提出しない。
- 提出した書類の控えを保管する。
メールアドレスを持っていないなど、やむを得ない事情がある場合には書面による提出も案内されています。
【要注意】賃金改善実績報告書を提出しない場合も問題になる?
ベースアップ評価料は、届出をして算定を開始すれば終わりという制度ではありません。
算定後も、職員の賃金改善が適切に行われているかを報告する必要があります。
そのため、未届出の問題と同じくらい注意したいのが、賃金改善実績報告書と賃金改善中間報告書の提出漏れです。
2026年8月31日が報告期限だった
2026年度は診療報酬改定をまたぐため、報告書の種類が従来と異なります。
厚生労働省が案内している提出スケジュールは次のとおりです。
2026年8月
令和7年度分の賃金改善実績報告書を提出。
令和8年度分の賃金改善中間報告書も提出。
2027年8月
令和8年度分の賃金改善実績報告書を提出。
令和9年度分の賃金改善中間報告書も提出。
2028年8月
令和9年度分の賃金改善実績報告書と令和10年度分の中間報告書を提出。
2026年8月の報告期限は8月31日でした。
令和7年度分は2025年度の賃金改善実績を報告するもの、令和8年度分の中間報告書は2026年6月~7月時点の賃上げ状況を報告するものです。
期限に遅れた場合は提出できないのか?
ここは重要なポイントです。
厚生労働省は2026年9月1日付の事務連絡で、報告書の提出期限である8月31日を過ぎた場合でも、やむを得ず遅れた医療機関については、可及的速やかに地方厚生(支)局へ提出することと案内しました。
したがって、提出期限を過ぎたからといって、そのまま放置するのは適切ではありません。
まだ提出していない場合は、最新の報告書様式を使用して、できるだけ早く提出してください。
ただし、これは実績報告書・中間報告書の提出遅延に関する取扱いです。5月の初回届出期限を過ぎた場合の特例を意味するものではありません。両者を混同しないことが重要です。
【実態調査】ベースアップ評価料を届出しない理由は何か?
制度の重要性が理解されていても、実際には届出を行っていない医療機関があります。
その背景を考えるうえで参考になるのが、厚生労働省の中央社会保険医療協議会に提出された「ベースアップ評価料を届け出ていない理由について」という調査資料です。
令和6年度の入院・外来医療等における実態調査では、未届出病院313施設の回答が整理されています。
主な理由は次のとおりです。
未届出の理由(回答313施設)
{#each [{label:"届出内容が煩雑なため",value:55.27},{label:"次回改定後も制度が存続するか不明なため",value:38.98},{label:"患者への説明が難しいため",value:12.14},{label:"事務作業の外注費用が高いため",value:7.67},{label:"十分な賃上げが可能なため",value:6.07}] as item}
{item.label}
{/each}
特に目立つのは、届出内容が煩雑という回答が55.27%に達していることです。
また、制度が次回改定後も存続するか不明という回答も38.98%ありました。
この結果から、未届出の背景には、単に賃上げに消極的というだけではなく、事務負担や制度変更への不安があることがうかがえます。
届出しない理由と実際の判断基準
医療機関が届出を見送る理由には、それぞれ事情があります。
しかし、2026年度の制度では、次のような観点から判断する必要があります。
- 事務作業が負担: 厚生労働省の届出の手引きや解説動画を活用し、作業を標準化する。
- 賃上げ原資が不足: (Ⅰ)だけでなく、施設基準に応じて(Ⅱ)などの対象になるか検討する。
- 制度が継続するか不安: 現行年度の告示・通知に基づいて判断する。
- 患者への説明が難しい: 評価料の趣旨や職員の処遇改善との関係を整理して説明する。
- すでに独自に賃上げしている: 既存の給与体系と制度上の賃上げ要件を比較する。
特に注意したいのは、独自に賃上げできているからといって、すべての施設基準や届出要件を満たしているとは限らない点です。
【プロの結論】未届出の医療機関が今すぐ確認すべきこと
2026年度のベースアップ評価料で本当に重要なのは、届出の有無だけでなく、施設基準・算定開始時期・賃金改善の実績を一体的に管理することです。
特に2026年は、診療報酬改定に伴う再届出が必要だったため、以前の届出をそのまま継続できると考えていた医療機関ほど注意が必要です。
現在の対応としては、次の順番で確認することをおすすめします。
1. 2026年度の届出が受理されているか確認する。
2. 受理された評価料の種類と区分を確認する。
3. 未届出なら管轄の地方厚生(支)局に相談する。
4. 最新の届出様式を使用して手続きを進める。
5. 算定開始可能日を確認し、それ以前の診療分を誤請求しない。
6. 賃金改善の実施状況と報告書の提出状況を確認する。
ベースアップ評価料は、医療機関の収入を増やすだけの制度ではありません。医療現場で働く職員の賃金改善を診療報酬によって支える仕組みです。
届出を見送る場合には、目先の事務負担だけでなく、今後の人件費負担や採用・定着への影響も含めて検討する必要があります。
【ベースアップ評価料を届出しないとどうなる?】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:ベースアップ評価料を届出しないと罰則がありますか?
A1:未届出そのものについて、直ちに一律の罰金が科されるという仕組みではありません。ただし、届出が受理されていなければ原則として評価料を算定できず、制度による賃上げ原資も確保できません。届出要件を満たさない請求を行うことは避ける必要があります。
Q2:以前からベースアップ評価料を算定していれば再届出は不要ですか?
A2:2026年度については、原則として必要です。厚生労働省は従来から算定していた医療機関も含め、令和8年度の新しい届出を5月中に行うよう案内しました。
Q3:2026年5月の届出期限を過ぎても申請できますか?
A3:期限後の届出については、管轄の地方厚生(支)局に確認してください。一般的な施設基準の取扱いでは、月末までに受理された場合は翌月から算定する仕組みがあります。ただし、6月分まで遡って算定できるわけではありません。
Q4:ベースアップ評価料Ⅰだけでも届出できますか?
A4:施設基準を満たしていれば可能です。外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)は基本となる評価料であり、すべての医療機関が(Ⅱ)まで届け出る必要はありません。
Q5:賃金改善実績報告書を提出し忘れたらどうなりますか?
A5:2026年9月1日付の厚生労働省事務連絡では、期限を超過した場合も可及的速やかに提出するよう案内されています。未提出の場合は、最新様式を確認して速やかに管轄の地方厚生(支)局へ提出してください。
まとめ:ベースアップ評価料の未届出は早期確認と適切な対応が重要
ベースアップ評価料を届出しない場合、医療機関は原則として該当する評価料を算定できず、職員の賃上げに活用するための診療報酬収入を確保できません。
2026年度は、従来から算定していた医療機関も再届出が必要となり、5月7日から6月1日までの提出期間が設けられました。すでに期限を過ぎているため、未届出の医療機関は、まず受理状況と今後の手続きを管轄の地方厚生(支)局に確認することが先決です。
また、届出後も賃金改善実績報告書や中間報告書の提出が必要です。制度を正しく活用するには、届出・算定・賃金改善・実績報告という一連の流れを継続して管理する必要があります。
医療機関にとって、ベースアップ評価料は職員の処遇改善と安定した医療提供体制を支える重要な制度です。2026年度の改定内容と最新の厚生労働省通知を確認し、届出漏れや請求誤りを防ぐことが求められます。 (出典: ベースアップ評価料 届出 しない と どうなる(Yahoo!ニュース))