精巣がんの初期症状は?痛みのないしこり・検査・治療・妊よう性を2026年版で徹底解説
精巣がんは、精巣(睾丸)に発生する悪性腫瘍で、20〜30歳代の若い男性にも発症するがんです。初期には痛みを伴わないことが多く、「片方の精巣が大きくなった」「硬いしこりができた」「左右の形が違ってきた」といった小さな変化から発見されるケースがあります。精巣がんは比較的まれな疾患ですが、進行が速い場合もあり、早期発見と適切な治療が重要です。
一方、精巣がんは抗がん剤治療が高い効果を示す代表的ながんの一つでもあります。診断されたからといって、将来の仕事、結婚、妊娠・出産に関する希望を諦める必要はありません。日本泌尿器科学会の「精巣癌診療ガイドライン2024年版」や、2026年4月に発行された「精巣癌取扱い規約 第5版」、国立がん研究センターの最新公開情報を踏まえ、初期症状、原因、検査、ステージ別治療、生存率、精子凍結保存まで詳しく解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 初期症状:痛みのない精巣のしこりや腫れ、左右の大きさの変化が代表的なサイン。痛みがないからといって放置してはいけない。
- 検査と治療:触診、超音波検査、AFP・hCG・LDHなどの腫瘍マーカー、CT検査を組み合わせて診断し、高位精巣摘除術を基本に治療方針を決める。
- 予後と妊よう性:早期の精巣がんは高い治療成績が期待できる。治療前の精子凍結保存を検討することで、将来の妊娠に備えられる。
【初期症状を見逃さない】精巣がんは痛みのないしこりや腫れで気づくことが多い
精巣がんの特徴は、初期には自覚症状が乏しいことです。腹痛や発熱などの症状がないまま、陰嚢の中にある精巣の変化によって発見されることが少なくありません。
国立がん研究センターの2025年4月更新の解説によると、精巣がんの代表的な初期症状は、精巣にできる無痛性のしこりや腫れです。精巣がんでは痛みや発熱が目立たないことが多く、本人が異常に気づくまで時間がかかる場合があります。
精巣がんで見られる代表的な初期症状
特に注意したい症状は次のとおりです。
- 片方の精巣が以前より大きくなった。
- 精巣の内部に硬いしこりが触れる。
- 陰嚢の片側が腫れている。
- 左右の精巣の大きさや形に明らかな違いが出てきた。
- 陰嚢に重苦しさや違和感がある。
- 下腹部や鼠径部に鈍い痛みや圧迫感がある。
- 乳首に痛みや腫れが生じる。
国立がん研究センターの解説では、下腹部の重圧感や鈍痛が見られる割合は30〜40%程度、急性の精巣痛は約10%とされています。つまり、精巣がんは必ずしも無症状・無痛とは限りません。
また、病気が進行すると、腹部や背中の痛み、首のリンパ節の腫れ、呼吸困難など、転移した部位に応じた症状が現れることがあります。乳首の痛みや腫れも、腫瘍が産生するホルモンなどの影響で起こる場合があります。
ただし、こうした症状があるからといって、必ず精巣がんというわけではありません。良性の腫瘍や炎症など、別の病気でも似た症状が起こります。重要なのは、自己判断で病気を決めつけず、精巣そのものに変化があれば泌尿器科で確認することです。
精巣がんと精巣上体炎はどう違う?
精巣の腫れやしこりが見つかったとき、間違えやすい病気の一つが精巣上体炎です。
精巣上体は精巣の後方から側面に付着する器官で、精巣で作られた精子の成熟や輸送に関わっています。この部分に細菌感染などによる炎症が起こると、陰嚢の腫れや痛みが生じます。
日本泌尿器科学会の一般向け解説では、成人の精巣上体炎は尿道や前立腺の細菌感染が原因となることがあり、痛みや発熱を伴って急激に発症するケースが多いと説明されています。
一方、精巣がんは精巣内部に硬いしこりができ、痛みが目立たないことが典型的です。ただし、精巣上体炎でも痛みのないしこりができる場合があり、症状だけで完全に区別することはできません。
| 比較項目 | 精巣がん | 精巣上体炎 |
|---|---|---|
| 発症の特徴 | 比較的徐々に腫れやしこりに気づく | 急激に発症することが多い |
| 痛み | 初期にはないことが多い | 痛みを伴うことが多い |
| 発熱 | 通常は目立たない | 発熱を伴う場合がある |
| しこりの位置 | 精巣内部 | 精巣の後方・側面にある精巣上体 |
| 主な検査 | 触診、超音波、腫瘍マーカー、CT | 触診、ドップラー超音波、尿検査など |
| 主な治療 | 高位精巣摘除術、必要に応じて化学療法など | 原因に応じた抗菌薬治療など |
特に注意したいのが、急激な陰嚢の激痛です。精巣捻転という、精巣につながる精索がねじれて血流が途絶える緊急疾患の可能性があります。日本泌尿器科学会によると、発症後6〜12時間以内に血流を回復できなければ精巣が壊死する危険があります。
突然の強い痛み、吐き気、嘔吐を伴う陰嚢の腫れがある場合は、精巣がんかどうかを考える前に、直ちに救急医療機関を受診してください。
【原因・リスクとセルフチェック】若い男性にも発症する理由とは
精巣がんの原因は、2026年現在も完全には解明されていません。ただし、医学的に関連が指摘されている危険因子はいくつかあります。
精巣がんの主なリスク因子
国立がん研究センターが挙げている代表的なリスク因子は次のとおりです。
- 停留精巣:胎児期から出生後にかけて、精巣が正常な位置である陰嚢内に下降していない状態。
- 家族歴:父親や兄弟に精巣がんを発症した人がいる。
- 過去の精巣がん:片側の精巣がんを経験している。
- 不妊症や精液検査の異常:精巣の機能異常との関連が指摘されている。
特に停留精巣は、よく知られた危険因子です。国立がん研究センターの解説では、停留精巣がある男性は、ない男性と比較して精巣がんの発症リスクが2〜10倍になるとされています。
また、父親や兄弟に精巣がんの人がいる場合は4〜8倍、片側の精巣がんを経験した人が反対側にも発症するリスクは20倍以上との報告があります。
ただし、これらの危険因子がなくても発症する可能性はあります。健康的な生活習慣を送っていることや、若くて持病がないことだけで、精巣がんを否定することはできません。
20〜30歳代に多いという特徴
精巣がんは、がん全体の中では比較的まれな病気です。国立がん研究センターの解説では、発症する割合は10万人に1人程度とされています。
しかし、特徴的なのは発症年齢です。20〜30歳代の男性に発生する固形がんとしては最も多いとされ、働き始めたばかりの人、大学生、結婚や子育てを考え始めた人などにも関係する病気です。
若年層では、陰嚢の違和感を医療機関で相談することに抵抗を感じる人もいます。しかし、受診を先延ばしにすることは、治療の選択肢や妊よう性への配慮を考える時間を失うことにもつながります。
精巣がんのセルフチェック方法
精巣がんを早期に疑うきっかけとして、入浴時などに自分の精巣の状態を確認することが役立ちます。国立がん研究センターも、青・壮年期の男性に対して、普段から精巣を触って異常がないか確認する自己検診を勧めています。
セルフチェックでは、次の点を確認します。
- 陰嚢の外観を見る:左右の大きさや形に以前と違う変化がないか確認する。
- 左右の精巣をそれぞれ触る:片方ずつ、親指とほかの指で優しく包むように触れる。
- 硬さを確かめる:以前はなかった硬い部分や、局所的な膨らみがないか確認する。
- 大きさの変化を見る:片側だけ明らかに大きくなっていないか確認する。
- 違和感を記録する:重さ、張り、痛みなど、以前と異なる感覚がないか把握する。
なお、精巣の後方には正常な構造物である精巣上体があります。ここに触れると、しこりのように感じることがあります。左右の精巣にも元々ある程度の大きさの違いがあります。
セルフチェックは、正常な解剖学的構造を理解し、普段の状態を把握するためのものです。しこりが触れたからといって、直ちにがんと決まるわけではありません。
以前にはなかった硬いしこりや腫れが確認できた場合は、痛みがなくても泌尿器科を受診してください。自分で何度も強く押したり、しこりを潰そうとしたりする必要はありません。
【検査方法を詳しく解説】超音波検査とAFP・hCG・LDHの役割
精巣がんが疑われる場合、診断には身体診察、超音波検査、血液検査、画像検査などが用いられます。
国立がん研究センターによると、精巣がんの診断では、最初に精巣の状態を確認し、超音波検査や腫瘍マーカーによって腫瘍の特徴を調べます。転移の有無についても画像検査で評価します。
1.触診・身体診察
医師が精巣や陰嚢を直接確認し、しこりの位置、大きさ、硬さ、左右差などを調べます。
精巣そのものに腫瘤があるのか、精巣上体や周辺組織に異常があるのかを確認することが、診断の第一歩です。
2.超音波検査(エコー検査)
超音波検査は、精巣がんの診断に欠かせない検査です。陰嚢に超音波を当て、精巣内部の状態や腫瘤の位置、大きさ、性状などを確認します。
検査は通常、身体への負担が少なく、痛みや副作用もほとんどありません。精巣内部に腫瘍が存在するのか、精巣上体など別の部分に異常があるのかを判断する際にも役立ちます。
3.血液検査と腫瘍マーカー
精巣がんの診断や治療効果の判定では、AFP、hCG、LDHという3種類の腫瘍マーカーが重要です。
これらは腫瘍の種類や活動性を推定するための指標であり、治療前後の数値の変化も確認します。
- AFP(α-フェトプロテイン):卵黄嚢腫瘍や胎児性癌など、非セミノーマの一部で上昇する。純粋なセミノーマでは上昇しない。
- hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン):非セミノーマの約40〜60%で上昇するほか、一部のセミノーマでも上昇する。
- LDH(乳酸脱水素酵素):がんに特異的な物質ではないが、腫瘍量や進行性を評価する際の参考となる。
日本泌尿器科学会の「精巣癌診療ガイドライン2024年版」では、AFP、hCG、LDHを精巣がんの重要な腫瘍マーカーとして位置づけています。
特にAFPには注意が必要です。病理検査で純粋なセミノーマと判断されていても、AFPが明らかに高値の場合には、転移部分などに非セミノーマ成分が含まれている可能性を考慮しなければなりません。
また、腫瘍マーカーが正常だからといって、精巣がんがないとは限りません。腫瘍マーカーは診断を補助する検査であり、超音波検査や病理検査などと組み合わせて判断します。
4.CT検査・PET-CT検査
精巣がんは、比較的早い段階からリンパ節や肺などに転移することがあります。そのため、診断後は造影CTなどを用いて、腹部や胸部を中心に転移の有無を確認します。
特に腹部大動脈やその周囲にある後腹膜リンパ節は、精巣がんの転移先として重要です。
病状に応じてMRIやPET-CTなどが検討される場合もありますが、すべての患者に同じ検査が必要になるわけではありません。
5.病理組織検査
精巣がんが強く疑われる場合、一般的な固形がんのように、手術前に腫瘍へ針を刺して生検する方法は原則として行いません。
精巣がんでは、手術によって摘出した精巣の組織を顕微鏡で詳しく調べ、がんの種類や性質を確定します。
このため、診断と治療を兼ねた高位精巣摘除術が重要な役割を果たします。
【ステージ・生存率と治療法】セミノーマと非セミノーマ、手術とBEP療法の違い
精巣がんの治療方針は、病理組織型とステージによって決まります。特に重要なのが、セミノーマと非セミノーマの違いです。
セミノーマと非セミノーマの違い
精巣がんの大部分は、精子のもととなる生殖細胞から発生する胚細胞腫瘍です。大きく分けるとセミノーマと非セミノーマに分類されます。
セミノーマは比較的放射線や抗がん剤に反応しやすく、非セミノーマは組織型によって性質が異なり、転移や再発のリスクも変わります。
非セミノーマには、胎児性癌、卵黄嚢腫瘍、絨毛癌、奇形腫などが含まれます。複数の組織型が混在する混合型もあります。
精巣がんのステージ分類
病期は、腫瘍が精巣内にとどまっているか、リンパ節へ転移しているか、さらに遠隔臓器へ広がっているかなどによって判断します。
- ステージI:がんが精巣にとどまり、画像検査などで転移が確認されない状態。
- ステージII:主に横隔膜より下にある後腹膜リンパ節などへの転移が確認された状態。
- ステージIII:肺、肝臓、脳などへの遠隔転移や、腫瘍マーカーを含む病期分類上の条件に該当する状態。
実際の病期はTNM分類に基づいて決定されます。原発腫瘍の広がりを示すT、リンパ節転移を示すN、遠隔転移を示すM、血清腫瘍マーカーを示すSを組み合わせて評価します。
高位精巣摘除術とは?
精巣がんの基本となる治療が高位精巣摘除術です。
この手術では、陰嚢ではなく鼠径部を切開し、がんが疑われる側の精巣、精巣上体、精索をまとめて摘出します。精巣につながる血管などを適切に処理し、腹部に近い位置まで精索を切除することから「高位」という名称が付いています。
この手術には、腫瘍を取り除く目的だけでなく、摘出した組織を病理検査に提出し、セミノーマか非セミノーマかを確定する目的もあります。
片側の精巣を摘出した後の治療は、病理組織型、腫瘍マーカー、画像検査による病期、再発リスクなどを総合して決定します。
ステージ別の治療方針
ステージIでは、手術後に追加治療を行わず、定期的な検査で経過を見る選択肢があります。すべての患者に抗がん剤治療が必要というわけではありません。
日本泌尿器科学会のガイドラインでは、ステージIのセミノーマについて、経過観察、カルボプラチンによる補助化学療法、放射線治療などが選択肢として示されています。現在は治療による長期的な副作用も考慮し、経過観察が重要な選択肢となっています。
非セミノーマのステージIでは、脈管侵襲の有無が再発リスクを判断する重要な要素です。経過観察、BEP療法による補助化学療法、後腹膜リンパ節郭清術などから、個々の状態に合わせて選択します。
ステージII以降では、腫瘍の広がりや腫瘍マーカー、予後リスク分類に応じて化学療法を中心とした治療が検討されます。
BEP療法とは?抗がん剤3種類を組み合わせる標準治療
BEP療法は、進行した精巣がんなどに用いられる代表的な化学療法です。次の3種類の薬剤を組み合わせます。
- B:ブレオマイシン……抗がん作用を持つ薬剤。
- E:エトポシド……がん細胞のDNAに作用し、増殖を抑える薬剤。
- P:シスプラチン……DNAに作用してがん細胞の増殖を抑える白金製剤。
投与回数は病状や予後リスクによって異なります。予後良好群ではBEP療法3コース、予後中間群では4コースなどが標準的な選択肢です。ブレオマイシンによる肺障害のリスクが高い場合には、EP療法など別の治療法が検討されます。
副作用には、吐き気、嘔吐、脱毛、倦怠感、白血球減少、感染症などがあります。ブレオマイシンでは間質性肺炎や肺線維症、シスプラチンでは腎機能障害、聴力障害、末梢神経障害などにも注意が必要です。
国立がん研究センターの療養情報によると、BEP療法を4コース行う場合、治療期間は約3カ月が目安です。副作用や治療効果を確認しながら、入院と通院を組み合わせて進めます。
精巣がんの生存率は?早期発見で高い治療成績が期待できる
精巣がんは、適切な治療によって高い治療成績が期待できるがんです。特に早期のセミノーマでは、長期的な予後が良好です。
日本泌尿器科学会の「精巣癌診療ガイドライン2024年版」では、ステージIのセミノーマについて、治療方法にかかわらず最終的な癌特異的生存率は約98〜99%に達すると説明されています。
また、ステージIの非セミノーマについても、経過観察、補助化学療法、後腹膜リンパ節郭清などの治療によって95%以上の高い治療成績が報告されています。
参考として、米国がん協会が2025年に公表した米国SEER統計では、2015〜2021年に診断された精巣がんの5年相対生存率は、限局性99%、所属リンパ節などへの広がりがある場合96%、遠隔転移がある場合72%でした。
ただし、この米国の分類は日本のTNMステージI・II・IIIと完全に一致するものではありません。また、5年相対生存率、癌特異的生存率、全生存率は異なる指標です。数値を単純に比較することはできません。
生存率は個人の治療結果を保証するものではなく、組織型、転移部位、腫瘍マーカー、年齢、全身状態、治療への反応によって変わります。
【転移・再発と妊よう性】精子凍結保存は治療前に相談することが大切
精巣がんの治療を考える際、若い患者にとって大きな問題になるのが妊よう性です。
妊よう性とは、妊娠させる力、つまり将来子どもを持つ可能性に関わる生殖機能を指します。精巣がんでは、病気そのものに加えて、手術、抗がん剤、放射線治療などが精子を作る機能に影響する可能性があります。
精巣を片側摘出すると妊娠できなくなる?
片側の精巣を摘出した場合でも、反対側の精巣が正常に機能していれば、精子の産生や男性ホルモンの分泌が維持されるケースがあります。
ただし、精巣がんの患者では、治療を始める前から精液所見に異常がある場合もあります。日本泌尿器科学会のガイドラインでは、診断時に約6〜24%が無精子症、約50%が乏精子症とする報告が紹介されています。
つまり、精巣がんの治療によって初めて妊よう性が低下するとは限りません。診断時点ですでに精子を作る機能が低下している可能性も考える必要があります。
精子凍結保存とは?治療前に行うメリット
精子凍結保存は、将来の妊娠に備えて、採取した精子を低温で保存しておく方法です。がん治療によって精子の数や質が低下する可能性がある場合に検討されます。
精巣がんでは、治療開始前の精子凍結保存が特に重要です。日本泌尿器科学会のガイドラインも、精巣がん患者に対して、治療前に可能な限り妊よう性温存について説明し、希望があれば保存を勧めるべきとしています。
治療後に精子の状態が悪化した場合でも、保存しておいた精子を生殖補助医療に利用できる可能性があります。
また、精子の採取が難しい場合には、専門施設で精巣内精子採取術(TESE)などが検討されることもあります。
日本泌尿器科学会では、医学的適応による精子や精巣・精巣上体精子の凍結保存に関する登録施設情報を公開しています。2026年10月23日更新の妊よう性温存療法実施医療機関の承認施設一覧も掲載されています。
BEP療法後に自然妊娠できる可能性はある?
BEP療法などのシスプラチンを含む化学療法は、精子を作る機能に影響する可能性があります。治療中や治療後に一時的な無精子症になることもあります。
しかし、治療後に精子の産生機能が回復する患者もいます。
日本泌尿器科学会の2024年版ガイドラインでは、シスプラチンを含む化学療法を4コース以下受けた患者について、長期経過観察によって造精機能が回復する可能性が紹介されています。
同ガイドラインが取り上げた長期観察研究では、BEP療法を受けた患者のうち、射精および性交が可能な人に限定した12年以内の妊娠成功率は、2コースで100%、3コースで83%、4コースで76%でした。
ただし、これは特定の研究対象者における結果であり、すべての患者に同じ妊娠率が当てはまるわけではありません。
また、同ガイドラインでは、BEP療法後の精子の染色体異数性率が治療前の水準に回復するまで約2年を要したという研究が紹介されています。治療後の妊娠を希望する場合は、主治医や生殖医療専門医と時期を相談することが大切です。
精巣がんの転移・再発はどこに起こる?
精巣がんは、腹部大動脈周囲の後腹膜リンパ節に転移しやすいという特徴があります。そのほか、肺、肝臓、脳などに転移する場合もあります。
再発リスクは、組織型や病期、脈管侵襲、治療方法などによって異なります。
日本泌尿器科学会のガイドラインによると、ステージIのセミノーマで手術後に経過観察を選択した場合、再発率はおおむね13〜20%とされています。再発の約70%は2年以内に起こりますが、6年以降や10年以上経過してから再発するケースもあります。
非セミノーマのステージIでは、無治療経過観察を行った場合、約30%に再発が認められたという報告があります。特に脈管侵襲がある場合は、再発リスクが高くなる傾向があります。
ただし、再発したからといって治療ができなくなるわけではありません。精巣がんは再発後も化学療法や残存腫瘍の切除などによって治癒を目指せる場合があります。
重要なのは、治療が終わった後も腫瘍マーカー、CTなどによる定期的な経過観察を続けることです。自己判断で通院を中断しないようにしてください。
【2026年最新の診療情報】精巣癌診療ガイドライン2024年版と取扱い規約第5版
2026年の精巣がん診療を理解するうえで、確認しておきたい専門資料が2つあります。
一つは日本泌尿器科学会が編集した「精巣癌診療ガイドライン2024年版」、もう一つは2026年4月に発行された「精巣癌取扱い規約 第5版」です。
精巣癌診療ガイドライン2024年版
日本泌尿器科学会が編集した「精巣癌診療ガイドライン2024年版」は、2015年版から9年ぶりに改訂された第3版です。2024年2月29日に第1刷が発行されました。
今回の改訂では、2015年以降に得られた医学的エビデンスを踏まえ、診断、初期治療、二次治療、治療後の経過観察まで幅広い内容が整理されています。
従来の30項目から13項目へクリニカルクエスチョン(CQ)が整理され、エビデンスの確実性や推奨の強さについても、Minds診療ガイドライン作成マニュアルに基づく評価が導入されました。
特に、精巣がんの治療選択では、単に腫瘍を取り除くことだけでなく、再発リスクと治療による長期的な影響を比較する考え方が重視されています。
2026年4月20日発行「精巣癌取扱い規約 第5版」
2026年の大きな更新として注目されるのが、日本泌尿器科学会、日本病理学会、日本医学放射線学会、日本臨床腫瘍学会が編集した「精巣癌取扱い規約 第5版」です。
金原出版から2026年4月20日に発行された本書は、前版から約7年ぶりの改訂となります。
主な構成は次の4分野です。
- 臨床的事項:診断や病期分類など、臨床診療に関する情報。
- 病理学的事項:組織型や病理診断に関する情報。
- 治療効果判定基準:治療による腫瘍の変化や効果の評価。
- 有害事象:薬物療法や放射線治療などに伴う副作用の評価。
今回の改訂では、2025年に公表されたUICC TNM悪性腫瘍分類第9版を見据えた記載が取り入れられ、画像所見や顕微鏡写真なども新しい知見に合わせて刷新されています。
ここで注意したいのは、診療ガイドラインと取扱い規約は役割が異なることです。ガイドラインは治療方針を考える際の標準的な指針であり、取扱い規約は臨床・病理・画像診断などにおける分類や評価の基準を整理した専門資料です。
したがって、2026年に新しい取扱い規約が発行されたからといって、2024年版の診療ガイドラインがそのまま無効になるわけではありません。両者を区別して理解することが大切です。
また、患者個人の治療方針は、これらの資料だけで決まるものではありません。実際の病理診断、腫瘍マーカー、画像検査、身体状況などを踏まえ、専門医が総合的に判断します。
【精巣がんに関するよくある質問(FAQ)】
Q1:精巣がんの初期症状は痛みがありますか?
A1:初期には痛みがないことが多く、片側の精巣にできる硬いしこりや腫れで気づくケースが代表的です。ただし、痛みを伴う場合もあります。痛みの有無だけで判断せず、以前にはなかった変化があれば泌尿器科を受診してください。
Q2:精巣にしこりがある場合、必ずがんですか?
A2:必ずしもがんとは限りません。精巣上体炎、精巣炎、陰嚢水腫、良性腫瘍などでもしこりや腫れが起こります。超音波検査などで原因を調べる必要があります。
Q3:精巣がんは20代や30代でも発症しますか?
A3:発症します。精巣がんは20〜30歳代の男性に多く、若い男性に発生する固形がんとして特徴的な疾患です。若いから大丈夫と考えず、異常があれば受診してください。
Q4:精巣がんは血液検査だけで発見できますか?
A4:血液検査だけでは確定できません。AFP、hCG、LDHなどの腫瘍マーカーは診断を補助する検査です。触診、超音波検査、CT検査、摘出した組織の病理検査などを組み合わせて判断します。
Q5:精巣がんは片方の精巣を摘出すると妊娠できなくなりますか?
A5:片側の精巣を摘出しても、反対側が正常に機能していれば、精子の産生が維持される可能性があります。ただし、治療前から精子の状態が悪い場合や、抗がん剤治療によって妊よう性が低下する場合もあります。治療前に精子凍結保存を相談することが大切です。
Q6:精巣がんのBEP療法は何カ月かかりますか?
A6:治療コースによって異なります。国立がん研究センターの情報では、BEP療法を4コース行う場合、約3カ月が目安です。実際の期間は治療効果や副作用などによって変わります。
Q7:精巣がんは転移していても治る可能性がありますか?
A7:あります。精巣がんは転移がある場合でも、BEP療法などの化学療法や必要に応じた残存腫瘍の摘除によって治癒を目指せる場合があります。転移部位や腫瘍マーカー、予後リスク分類などを踏まえた専門的な治療が必要です。
まとめ:精巣がんは早期受診と治療前の妊よう性対策が重要
精巣がんは、20〜30歳代の男性にも発症する悪性腫瘍です。初期には痛みのないしこりや腫れとして現れることが多く、本人が異常を感じても受診をためらうことで発見が遅れる可能性があります。
一方、精巣がんは適切な治療によって高い治療成績が期待できる疾患です。高位精巣摘除術による病理診断を基本に、セミノーマと非セミノーマの違い、ステージ、腫瘍マーカー、転移の有無などを総合的に評価し、必要な治療を選択します。
2026年は、日本泌尿器科学会の精巣癌取扱い規約第5版が発行された年でもあります。2024年版診療ガイドラインと合わせて、病理診断や病期分類、治療後の経過観察に関する情報が整理されています。
特に若い患者にとっては、治療そのものだけでなく、将来の妊よう性を守ることも大切な課題です。抗がん剤治療などを始める前に、精子凍結保存について主治医に相談しておくことで、将来の選択肢を残せる可能性があります。
【プロの結論】
精巣がんについて知っておきたい判断基準は、次の3つです。
- 痛みがなくても受診する:精巣の硬いしこりや腫れは、放置せず泌尿器科で検査する。
- 治療は組織型と病期で選ぶ:セミノーマと非セミノーマでは治療方針や再発リスクが異なるため、専門的な診断を受ける。
- 妊よう性を治療前に考える:将来子どもを持つ希望がある場合は、精子凍結保存について早い段階で相談する。
精巣の異常は、本人にとって相談しにくい問題かもしれません。しかし、早い段階で医療機関を受診することは、治療の選択肢を広げ、将来の生活を守るための第一歩です。しこりや腫れに気づいたら、痛みが出るまで待たず、泌尿器科で確認してください。
主な参考資料:日本泌尿器科学会「精巣癌診療ガイドライン2024年版」、日本泌尿器科学会・日本病理学会・日本医学放射線学会・日本臨床腫瘍学会「精巣癌取扱い規約 第5版」(2026年4月20日発行)、国立がん研究センター「精巣がんの原因・症状について」「精巣がんの検査・診断について」「精巣がんの治療について」「精巣がんの療養について」、日本泌尿器科学会「陰嚢内が痛い」「妊孕性温存を目的とした精子の凍結保存について」、米国がん協会「Survival Rates for Testicular Cancer」。
編集上の補足: この記事は一般向けの医療情報であり、個別の診断や治療方針を代替するものではありません。 (出典: 精巣 が ん(Yahoo!ニュース))