【場面を特定】「今日の日はさようなら」が流れるのはエヴァ3号機の破壊シーン
曲が流れるのは、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の中盤に登場する、エヴァ3号機と初号機の戦闘場面です。より正確には、使徒に侵食された3号機を、シンジの意思に反して初号機が一方的に破壊していくシーンに重ねられています。
この場面の悲劇性を強めているのが、3号機に搭乗している人物です。『破』では、アスカが3号機のテストパイロットを引き受けています。シンジとゲンドウの関係を改善するきっかけになればと、綾波レイが計画していた食事会を成功させようとするアスカの思いも、物語の背景にあります。
ところが、3号機は使徒に侵食され、ネルフにとって排除すべき敵へと変わってしまいます。シンジは機内に人間がいることを知っているため、攻撃を拒否します。しかし、初号機はダミーシステムによって制御され、シンジの意思を離れて3号機に襲いかかります。
初号機が3号機を容赦なく破壊し、ネルフ本部の職員たちがその光景を見つめる中で流れるのが、林原めぐみの「今日の日はさようなら」です。
映画・音楽を専門に扱うリアルサウンドの2021年1月22日付の作品解説でも、この場面と挿入歌の関係が明確に整理されています。単なる戦闘シーンのBGMではなく、アスカを救えないシンジの苦痛と、観客が抱く悲しみを際立たせる音楽として機能しています。
林原めぐみの歌唱が生む独特の不気味さ
歌唱を担当する林原めぐみは、綾波レイの声を演じる声優としても知られています。『破』では「今日の日はさようなら」だけでなく、「翼をください」も歌っています。
注目したいのは、歌声が激しい感情を前面に押し出すものではないことです。映像ではエヴァ同士の激しい戦闘が展開されているにもかかわらず、歌声は穏やかで、どこか日常的な温度を保っています。
そのため、観客は映像の残酷さと歌の優しさを同時に受け止めることになります。激しいオーケストラや緊迫感のある戦闘音楽であれば、視聴者は戦闘の迫力に意識を向けやすくなります。しかし、この曲の場合は、むしろ破壊されていくものの大切さを意識させられるのです。
なお、劇中で歌っているのは綾波レイというキャラクターではなく、林原めぐみが歌唱する挿入歌です。声優としての役柄と歌手としての参加を混同しないことも、作品を正しく理解するポイントです。
【演出意図を分析】なぜ悲惨な戦闘に卒業ソングを重ねたのか
「今日の日はさようなら」がエヴァの中でも強い印象を残す理由は、楽曲そのものが持つ意味と、映像の内容が正反対に近い関係にあるからです。
原曲は、友人とのつながり、明日への希望、互いを信じる喜び、そして再会への願いを描いた歌です。卒業式や学校行事、合唱の場で親しまれてきた背景もあり、多くの日本人にとって穏やかな別れを連想させる旋律になっています。
一方、『破』の3号機の場面で描かれるのは、仲間との穏やかな別れではありません。シンジにとって大切な人物が乗っている機体が、本人の意思に反して破壊されていくという、取り返しのつかない状況です。
1.「また会う日まで」という希望が悲劇に変わる
この曲の歌詞が伝えているのは、今日という時間が終わっても、人との関係や思い出は失われないという考え方です。別れは永遠の断絶ではなく、次に会う日へ向けた区切りとして描かれています。
しかし、3号機の破壊シーンでは、その前向きな意味が反転します。シンジはアスカを友人として認識しているからこそ、攻撃を拒否します。それでも初号機は止まらず、彼の願いは届きません。
つまり、再会を願う歌が流れる一方で、映像は再会を簡単には許さない現実を見せています。ここに、作品特有の皮肉と残酷さがあります。
2.穏やかな歌声が視聴者の感情を逃がさない
リアルサウンドの解説では、児童合唱団のコーラスを加えた林原めぐみの静かな歌声と、3号機が破壊される映像との組み合わせが取り上げられています。
この演出では、音楽が悲しみを直接説明するのではなく、視聴者自身に悲しみを認識させる役割を担っています。音楽が感情を誘導するというより、画面に起きている出来事の意味を、知っている歌の記憶によって再認識させる仕掛けです。
3.高橋洋子も評価した林原めぐみの歌唱表現
2025年10月29日公開のリスアニ!による高橋洋子のインタビューでも、この場面について興味深い証言が語られています。
高橋は、林原めぐみの淡々とした歌唱が、まるで効果音のようにシーンを印象づけていたと振り返っています。
これは、2025年に同じ曲を新録した高橋自身が、作品内での林原版の演出効果を評価しているという点でも興味深いものです。
歌唱力を誇示するような表現ではなく、楽曲を映像の一部として溶け込ませる。その抑制された歌唱が、結果として観客の記憶に残る強烈な場面を生み出しています。
【原曲の正体】金子詔一が1966年に生み出した別れと友情の歌
「今日の日はさようなら」は、エヴァのために作られた楽曲ではありません。原曲の誕生は1966年までさかのぼります。
作詞・作曲を担当したのは、金子詔一です。小学館のデジタル大辞泉プラスによると、1966年に発表され、2007年には文化庁と日本PTA全国協議会による「日本の歌百選」に選ばれています。
その後、森山良子が1967年8月25日に発売したシングル「恋はみずいろ」のB面に収録したことで、広く知られる楽曲になりました。森山良子の公式ディスコグラフィーでも、発売日と収録曲が確認できます。
原曲が持つ3つのメッセージ
歌詞の内容を整理すると、大きく3つのテーマに分けられます。
- 友情の継続: 今日で別れても、友人としてのつながりは絶えないという願い。
- 未来への希望: 過去にとどまらず、明日へ向かって自由に歩んでいく姿勢。
- 信頼の大切さ: 人と人が互いを信じる喜びを忘れないというメッセージ。
重要なのは、タイトルにある「さようなら」が、必ずしも関係の終わりを意味していないことです。歌の中心にあるのは、別れを受け入れながらも、再会と未来を信じる気持ちです。
そのため、卒業式や合唱の締めくくりなど、人生の節目で歌われてきました。2007年の「日本の歌百選」への選定も、この曲が世代を超えて親しまれてきたことを示す出来事です。
このような背景を知ると、『破』での使用がさらに印象深くなります。本来ならば人々の門出を祝うような歌が、アスカとの関係を断ち切るような破壊の映像に重ねられているからです。
【関連作品と音源を比較】林原めぐみ版・EVANGELION FINALLY・高橋洋子版の関係
「今日の日はさようなら」を調べる際に混乱しやすいのが、劇中で流れた林原めぐみ版と、後年発売されたアルバム収録版の関係です。
特に2020年の『EVANGELION FINALLY』と、2025年の『EVANGELION FLASHBACK』は、どちらもエヴァの記念アルバムですが、同じ録音ではありません。ここを整理すると、音源の変遷が分かりやすくなります。
この流れから分かるのは、2009年の劇中歌唱、2020年の音源商品化、2025年の新録カバーという3つの段階があることです。歌手が異なるだけでなく、それぞれの録音が持つ意味も違います。
なお、2020年の『EVANGELION FINALLY』は、エヴァンゲリオンシリーズ25周年を記念したボーカルセレクションCDです。公式サイトの収録曲一覧には、「今日の日はさようなら」と「翼をください」が、いずれも林原めぐみの歌唱で掲載されています。
【2025年の新録カバー】高橋洋子が「今日の日はさようなら」を歌った理由
2025年10月29日、エヴァンゲリオンシリーズ30周年を記念する高橋洋子のアルバム『EVANGELION FLASHBACK』がキングレコードから発売されました。
全15曲を収録した同作の最後に配置されたのが、新録カバーの「今日の日はさようなら」です。『残酷な天使のテーゼ』『魂のルフラン』など、エヴァを代表する楽曲とともに収録されています。
このカバーが特別なのは、単なる周年企画の選曲ではなく、高橋自身の人生と深く結びついた楽曲だからです。
小学校2年生から高校2年生まで所属した合唱団との縁
リスアニ!の2025年10月29日付インタビューで、高橋は、この曲が自身の音楽人生における思い出の曲であることを明かしています。
高橋が所属していたのは、東京滝野川少年少女合唱団です。小学校2年生から高校2年生まで在籍し、最初に練習した曲が「今日の日はさようなら」だったと語っています。
さらに、2000年から2005年まで介護の仕事をしていた時期にも、この曲とのつながりが続いていました。高橋によれば、介護現場では一日の帰りの会でこの曲を歌い、自身もピアノ伴奏をすることがあったそうです。
つまり、高橋にとってこの歌は、子ども時代の合唱活動だけでなく、仕事を通じて人と別れる時間にも寄り添ってきた楽曲でした。
新録版では高橋洋子自身がピアノを演奏
今回の録音では、高橋本人がピアノを演奏しています。さらに、かつて所属していた東京滝野川少年少女合唱団の現役メンバーとOGがコーラスに参加しました。
高橋はインタビューで、一人の歌手として目立つことよりも、唱歌として自然に歌うことを意識したと説明しています。自分一人ではなく、多くの人とのつながりによって歩んできた人生を、この曲で表現したかったという思いも語っています。
アレンジを担当したSiNによるチェロも加わり、原曲の持つ温かさを残しながら、新たな音楽表現に仕上げられています。
林原めぐみ版が映画の悲劇を際立たせるための歌唱だったとすれば、高橋洋子版は、30年間のエヴァとの歩みと自身の人生を振り返るための歌唱です。同じ曲でも、歌い手の経験によって意味が変わることを実感させるカバーになっています。
『EVANGELION FLASHBACK』の収録内容
キングレコードの公式ディスコグラフィーに掲載された収録曲は、以下の15曲です。
1. 残酷な天使のテーゼ
2. FLY ME TO THE MOON 2020
3. 無限抱擁
4. 幸せは罪の匂い
5. 魂のルフラン
6. 心よ原始に戻れ 2020
7. 慟哭へのモノローグ
8. 暫し空に祈りて
9. TENSIONS - welcome to the stage
10. 赤き月
11. what if?
12. Final Call
13. Teardrops of hope
14. 罪と罰 祈らざる者よ
15. 今日の日はさようなら(新録カバー)
CDの発売日は2025年10月29日、品番はKICA-2641、税込価格は3,850円です。2026年現在は、発売済みの30周年記念アルバムとして位置づけられています。
【もう一つの重要な挿入歌】「翼をください」との違いを整理
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』には、「今日の日はさようなら」以外にも、林原めぐみが歌唱する印象的な挿入歌があります。それが「翼をください」です。
こちらが流れるのは、映画終盤のクライマックスです。初号機が覚醒し、取り込まれた綾波レイを救おうとする場面に重ねられています。
リアルサウンドの作品解説でも、2曲の使用場面は明確に区別されています。「今日の日はさようなら」は3号機の破壊、「翼をください」はレイを救おうとするクライマックスです。
両曲は同じ歌手による挿入歌ですが、映像上の役割は異なります。
- 「今日の日はさようなら」:友情や別れを連想させる歌を、破壊と喪失の場面に重ねる。
- 「翼をください」:飛翔や自由を連想させる歌を、初号機の覚醒とレイの救出に重ねる。
興味深いのは、どちらも学校や合唱などを通じて日本人に広く知られてきた楽曲であることです。『破』では、昭和の歌謡曲やフォークソングが随所に登場します。マリが仮設5号機を操縦する際に「三百六十五歩のマーチ」を口ずさむ場面も、その一例です。
こうした選曲によって、エヴァの非日常的な世界に、観客が日常生活で知っている音楽の記憶が持ち込まれています。戦闘の規模が大きくなるほど、親しみのある歌との落差も際立つ構成です。
【プロの結論】2曲の違いを理解すると『破』の音楽演出が見えてくる
「今日の日はさようなら」と「翼をください」を単にエヴァの懐かしい挿入歌として並べるだけでは、演出の面白さを十分に捉えられません。
前者は、失われていく友情や日常を観客に意識させる役割を持ち、後者は、現実を超えていくような初号機の覚醒を印象づけます。
どちらも歌詞の意味と映像の内容が完全に一致しているわけではありません。むしろ、観客が知っている歌のイメージと、目の前で起きている出来事との距離が、エヴァらしい複雑な感情を生み出しています。
音楽を聴く際は、曲名だけでなく、誰が歌い、どの場面で流れ、映像とどのような対照関係を作っているかまで見ると、作品への理解が深まります。
【よくある質問】今日の日はさようならのエヴァでの使用に関するFAQ
Q1:『今日の日はさようなら』はエヴァのどの場面で流れますか?
A1:2009年公開の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』で、使徒に侵食されたエヴァ3号機を初号機が破壊する場面です。3号機にはアスカが搭乗しており、シンジが攻撃を拒否する中で初号機が暴走する悲劇的なシーンに流れます。
Q2:エヴァ版「今日の日はさようなら」を歌っているのは誰ですか?
A2:林原めぐみです。綾波レイ役の声優としても知られていますが、劇中歌として本人が歌唱しています。2025年には高橋洋子による新録カバーも発売されました。
Q3:「今日の日はさようなら」は「翼をください」と同じ場面で流れますか?
A3:違います。「今日の日はさようなら」は3号機の破壊シーン、「翼をください」は映画終盤の初号機覚醒とレイの救出を描くクライマックスで使用されています。どちらも林原めぐみの歌唱です。
Q4:原曲の作詞・作曲を担当した人物は誰ですか?
A4:金子詔一です。1966年に発表された楽曲で、2007年には「日本の歌百選」に選ばれました。森山良子が1967年のシングル「恋はみずいろ」のB面で歌ったことでも知られています。
Q5:高橋洋子の新録版はどのアルバムに収録されていますか?
A5:2025年10月29日発売の『EVANGELION FLASHBACK』です。東京滝野川少年少女合唱団の現役メンバーやOGがコーラスに参加し、高橋洋子自身もピアノを演奏しています。
Q6:『EVANGELION FINALLY』にも「今日の日はさようなら」は収録されていますか?
A6:収録されています。2020年10月7日発売の『EVANGELION FINALLY』には、林原めぐみ歌唱のバージョンが収録されています。2025年の『EVANGELION FLASHBACK』に収録された高橋洋子の新録カバーとは別の音源です。
まとめ:今日の日はさようならがエヴァに残した音楽的な意味
「今日の日はさようなら」は、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の中でも、とりわけ強烈な印象を残す挿入歌です。
使徒に侵食された3号機を初号機が破壊する場面で、林原めぐみの穏やかな歌声が流れる。その組み合わせは、友情や希望を歌う原曲のイメージを反転させ、シンジが直面する喪失と無力感を際立たせています。
原曲は1966年に金子詔一が作詞・作曲した楽曲であり、森山良子の歌唱を通じて広く親しまれてきました。エヴァでの使用は、作品の中に日本の歌謡曲や合唱文化の記憶を取り込んだ音楽演出の一つです。
そして2025年には、高橋洋子が自身の合唱団時代の思い出を重ねた新録カバーを発表しました。林原めぐみ版が映画の悲劇を象徴する音源であるのに対し、高橋洋子版には、歌い手自身の人生とシリーズ30年の歩みを振り返る意味が込められています。
この曲を理解する最大のポイントは、「さようなら」という言葉だけでなく、その後に続く再会への希望まで考えることです。本来は未来を信じるための歌が、エヴァでは取り返しのつかない別れの場面に使われた。その落差こそが、公開から年月を経ても、この挿入歌が多くの視聴者の記憶に残り続ける理由です。
2026年に改めて『破』を見返すなら、3号機の戦闘シーンだけでなく、その直前のアスカとシンジの関係、そして歌が流れ始めるタイミングにも注目してみてください。音楽の意味が変わり、作品の悲劇性をより深く感じられるはずです。
主な参考資料:エヴァンゲリオン公式サイト、キングレコード公式サイト、高橋洋子公式サイト、リスアニ!2025年10月29日付インタビュー、リアルサウンド映画部2021年1月22日付解説、小学館デジタル大辞泉プラス、森山良子公式ディスコグラフィー。 (出典: 今日 の 日 は さようなら エヴァ(Yahoo!ニュース))